写真集を作りました。

消えていく時代に、消えないものを
スマホの画面を上に流すたび、素晴らしい作品がひとつ、また次の投稿に押し出されて消えていく。
今のSNSは恐ろしいほど速い。どれだけ時間をかけて撮った一枚も、どれだけ心を込めて仕上げた一枚も、24時間も経てば次の誰かの投稿の下に埋もれてしまう。見た瞬間に「いいね」を押して、次の瞬間にはもう忘れている。作品が「消費」されていくスピードに、正直ずっと違和感を持っていました。
だから僕は、消えないものを作ろうと思いました。
2026年9月1日、写真集 Essence を発売しました。全160ページ、128作品。前作 AMBIENT から約4年をかけた、今の自分の集大成です。
作品には、付加価値があるべきだと思う
作品というのは、ただ「見られる」だけでは足りない。そこに何らかの付加価値があってはじめて、作品は作品として意味を持つ。僕はそう思っています。
その付加価値を生み出せる数少ない手段が、写真展であり、写真集です。画面をスクロールする指を止めて、一つの空間に足を運ぶ。ページをめくる手を止めて、一枚の写真とじっくり向き合う。この「立ち止まらせる力」こそ、SNSにはない紙とインクの強さだと思います。
正直に言うと、この写真集は利益を考えて作っていません。汚い話ですが、原価を考えれば普通に赤字になります。それでも僕はいいと思っています。手に取った人が何かを感じてくれたり、自分の糧にしてくれたり。ただそれだけで、この写真集を作った意味はあると思っているからです。
ユタの乾いた大地から、スコットランドの深い森まで
Essence、つまり「本質」というタイトルには、僕がこの数年カメラを通して追いかけてきたテーマがそのまま入っています。
軸になっているのは、日本の森です。四季ごとに表情を変える光と湿度、その中で静かに息をしている木々。ここが僕の原点であり、この写真集の背骨になっています。
そこにアメリカ・ユタ州の景色を重ねました。赤茶けた岩肌、水分をほとんど含まない乾いた大地。それでも根を張り、色を保ち続ける植物たち。地上からGFXで捉えるだけでは足りず、空撮にも初めて本格的に挑戦しました。上空から見てはじめて分かる、大地が何十万年もかけて刻んできた「模様」があります。
そしてイギリス。一面に紫の絨毯を敷いたようなブルーベルの森、スコットランドの霧に沈む壮大な景色。歴史の重みを纏った深い森。僕にとって特別な思い入れのある土地です。
日本、ユタ、イギリス。この三つの土地は、地図の上では遠く離れています。でも僕の中では、同じ「自然の本質」というテーマの上でひとつに繋がっています。単なる旅の記録集ではなく、僕という一人の人間の眼を通して再構成された、ひとつの風景として見てもらえたら嬉しいです。
紙とインクにも、自分の意志を込めた
レイアウトは1から自分で組みました。どのページでどの作品と呼吸を合わせるか、見開きでどんな余白を残すか。そして紙にもかなりこだわりました。表紙にはアートベラム、本文にはダルアート系の紙を選び、手に取ったときの重みや、ページをめくる指先の感触まで含めて「一つの作品」として仕上げたつもりです。
そして色公正。これは写真展でもそうですが、一つの作品を作る上で作家と技術者の意思をすり合わせる非常に重要な工程となります。ここも一切の妥協はしたくなく、実際に印刷会社のある北海道へと渡りました。一つ一つページを見ながら時間を費やして色の調整を行いました。自分の満足のいく色が出た時の心情と印刷担当の方の安堵の表情が一致し、ようやく形が見えてきたなと思いました。
そして、ありがたいことに、アメリカ出身で日本在住の風景写真家のMark Davis氏に序文を寄せていただきました。Markとは本当に長い時間を共にした相棒とも言える人物で、数々の撮影を通して、心を通じ合わせてきました。そんなMarkに書いていただいた序文を添えて限定300部、その中の50部には直筆サインとナンバリング、そして象徴となる3種類から選ぶファインアートプリントつきのSpecial Editionを加えて構成しております。
「センスがある」と言われるたび、僕は少し困る
あまりこう言うことを自分で言うのはどうかと思いますが、ワークショップをしていると、「星野さんは見るところが違いますね」「色のセンスがすごい」と言っていただくことがあります。ありがたい言葉ですが、正直言うと、これは生まれ持った才能でも何でもありません。
僕は誇張なしに、絵を描いたり何かを一から作り上げたりすることが本当に苦手な人間です。もし本当に「アートセンス」という生まれつきの何かが存在するなら、僕にもそれが少しくらい分野を越えて滲み出てもいいはずです。でも、そんなものは一切ありません。
学生時代、美術や技術ではいつも2を取ってきました。絵を描くにしても毎回いびつな形の何かを描き上げるし、絵の具で色を作り上げる考えはなく、いつも原色で塗っていたのを思い出します。制作の授業でも適当に資材をテープで繋ぎ合わせて意味のわからないものを作っていました。ある程度の感性があれば工夫したりするものです。でも僕にはそれができなかった。
もし僕に何かあるものがあるとすれば、それはただ、人並み以上の時間をかけて写真集を眺め、構図を分解し、色を分析し、「なぜこれが美しいのか」を考え続けてきた時間だけです。センスという便利な一言で片付けられてしまうものの正体は、たいてい地味な反復と観察でしかない。僕はそう思っています。
だからこそ僕は、集中して多くの作品と向き合える「写真集」という存在に、特別な感情を持っています。素晴らしい写真家は皆、風景写真に限らずさまざまなアートブックを手元に置き、そこから常にインプットしています。そこで得たものは、そのまま真似るのではなく、一度自分の中で咀嚼して、なぜ美しいのかを考え抜いてはじめて、自分の技術として撮影の中に生きてきます。この地道な入力と咀嚼の繰り返しこそが、僕らが「センス」と呼んでいるものの正体なんじゃないかと思います。
それでも、まだプロだとは思っていない
これまでワークショップやセミナー、オンラインコミュニティでの活動を通して、写真家としてはまだほんの数年という未熟な歴の中で、多くの方に評価をいただき、対価までいただけるようになりました。それを「プロ」と呼ぶのなら、そうなのかもしれません。
でも自分では、全然そうは思っていません。もっと成長すべきだと、いつも思っています。
ただ、ここで一つ区切りをつけて、これまで支えてくださった皆さんへの恩返しとして、写真集というひとつの形を残す。これには意味があると思いました。この本は、ゴールではなく、次に進むための区切りです。
この一冊が、誰かの手の中で
Essence は、下記のページからご購入いただけます。
スクロールすれば消えていくものが多い時代に、あえて紙の重みと手触りを選びました。この一冊が誰かの本棚の片隅に置かれ、ふとした時にまた開かれ、誰かの中に何かを残してくれたら。それだけで、この写真集を作った意味は十分にあると思っています。




楽しみにしていた写真集が届き嬉しいです。先日星野さんのオンラインでのお話を思い出しながら1ページずつゆっくり拝見したいと思います。